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そういうと彼は、なるほど、くまみたいな人だったんだね。とくすくす笑う。
「僕にはただのくまのぬいぐるみにしか見えないんだけどなあ。」
不思議そうにぬいぐるみをさわり、耳をあててみたりしている彼を見ているとなんだかおかしくって、私もまた、笑う。
「当たり前よ。私だけの特別な能力なんだから。」
そう。神様がくれたちょっと変わった特殊能力というべきか、私は人の「ぬくもり」に触れるとその持ち主の感情や想いをくみ取ることができるのだ。そしてそれを、たとえばぬいぐるみのようなものに保存することもできる。歴代の彼氏は大抵これを知ると逃げるか気味悪がるかの二つに一つであった。
「素敵な能力だね。」
でも彼は違った。
「ただ、元彼のそれが綺麗に並べられているのを見るとさすがに少し妬けちゃうな。」
「あら?想い出はファイル毎に整理して保存しておくのが主流だと思っていたけど?」
「僕は上書き保存派だね。」
「ええ、趣味の一つでもあるんだけどなあ。」
「じゃあこれからは僕のぬくもりだけを集めたら?減るもんじゃないだろうし、さ。」
しばし考えた結果、それもそうか、と
「そうする!」
その日私は、元彼のぬくもり断捨離を決行した。
***
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