第三章 毒親からの子離れ

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18のわたしは、妊娠していた。 母は全く怒らなかった。「降ろしなさい」そう言った。 わたしにも産む選択肢なんてわからなかった。 当時の相手も出会い系で知り合った大学生だ。 あの日の母の顔は忘れない。 怒らず。「パパには内緒ね」「あーでもびっくりした」と微笑み多くは語らない。 中絶手術は、半日で済んだ。 仕事も休むことなく。誰にも話さなかった。 夕方帰った父に母は「あの子具合が悪いから寝かしといてあげて」と言っていた。 のちに母は、この話を冗談でも言ったことや罵倒したことはなかった。怒らなかった。 母が毒親に、お酒に走らなくちゃ行けなくなった、いつもヒステリーを起こす、誰にも頼らない完璧主義者になった理由の根本があるはずだ。 綺麗で黒髪のロングが似合う母だった。 浅野温子に似てるなーと幼いながら思ってた。 バカを言って笑うときは笑い合い。ぎゅっと抱き締めてくれたことだってある。大好きな母な時だって沢山あったのだ。 ブドウパンが好きでブドウパンを焼いたり。左利きで左利き用の編み方が載った本なんてないのに、独自で何度も練習し、器用にレースを左で編むのだ。 型紙のない、リカちゃん人形のお洋服もレースで編んでくれた。家の中は母のレースで溢れた。 わたしのことを褒めることも、一緒におままごとしてくれる訳でもなかったが、母のこと全部嫌いなんかじゃなかった。 根本は普通だったのだ。お酒に走らなきゃいけない理由があったのだろう。だけど、お酒を飲んだ母は嫌いだ。 その頃のわたしは、お酒さえやめてくれたら母は普通になるのに…そんな風に思っていた。 楽しみがない母。誰とも話さなくて1日が過ぎる日もあっただろう。何をするわけでもなく、父がどこかに連れ出すわけでもない。ランチさえ父とするわけではない牢獄にいるような生活。お酒しか楽しみがない。 わかっていても、わたしはお酒を飲む母が嫌でたまらなかった。
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