第1章 ~灰色の世界~

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遠くのほうで黙々と上がる煙が見えた。 青い空は灰色に染め上げられてゆく…。  「なんだか怖いな…   クレハ、母さんんと父さんんの元に帰ろうか。」   「うん。怖いよぉ…。」 私は兄の腕の袖をつかみながら家まで走った。 しかし、走っていた足は家から20m離れたところでピタリと止まってしまった。 私も兄も今視界に見える光景に声も足も出ない。  「お兄ちゃん…。」  「なんなんだ…あれは…。」 上空にいたのは見たことのない大きな竜だった。 竜は私たち二人の姿を眼中におさめると、真っ赤な火の玉をはきだした。 幸運にも当たらなかったが、周囲の家はどんどん燃えてゆく。 そして家族と暮らしていた家も大きな炎を出しながら燃え落ちていた。 私はただ  「おとーさーん!!おかーさーん!!う…うう…。」 そう叫んでいた。 兄はそんな私をゆっくり抱きしめ  「またあとでここに来よう。   今は危ないからここから離れような…?」 そういって泣き叫ぶ私を抱きかかえようとした。 しかし兄は突然守るかのように強く抱きしめた。 上からバラバラと燃えた木材が落ちてくる。 何度も木材がぶつかるが兄は抱きしめていた力を緩めることはなかった。 ほとんどの家の木材が落ち、兄は抱きしめていた力を弱めてゆく。 そして、地面へと倒れこんだ。  「お…お兄ちゃん…?!」 周囲は炎の海になってゆく中、目を閉じてゆく兄の姿をただひたすらに見ていた。  「いやだよ…いやだ…。   行かないで…ねぇ…お兄ちゃんいやだよぉ…!!」  「ごめんクレハ…   でも傷がなくて…よか…った…。」 最後にそう言って、目を閉じた。 泣いた。 泣き続けた。  「ああ…うああ!!!   ねぇ…!一人にしないでよぉ!」 泣きじゃくる中 竜は今なお周辺の家を破壊し続ける。 ごうごうと音を立てる炎が死神のように私を誘う。 ああ…もう駄目なんだ… そう思い、目を閉じる。 その時だった。  「轟け!我が水龍の騎士(ナイト)よ!」   言葉と同時に大量の水龍が姿を現す。 竜は水龍の姿を見て空の彼方へと飛び去ってゆく。 そして目を開けたときは まっさらな灰色の世界へと変貌していたのだった。
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