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「これ、楠木に渡しといて……!」
その場でしたためた手紙を押し付けられた眼鏡の彼が、驚いた様子で受け取ったのを確認すると、淳平は全速力でその場から走り去った。
───やった……!
ずっと引き篭もりで内気で陰気だった自分が、他校の女子をも虜にするイケメンに手紙を叩きつけてやった……!(直接手渡せてはいないが)
まだ対面すら果たしていないのに、既に興奮と達成感で胸が騒いでいる。
人生で初めて、個人的に手紙を送った。しかもI高トップのイケメンに。
「……楠木くん、とうとう男子からもモテ始めたんだ」
走り去る背中へ零された少年の呟きは、謎の感動に浸る淳平に届くことはなかった。
手紙を託した時点で大きな何かを成し遂げた気持ちでいた淳平だったが、結果から言うと楠木は指定した五時を過ぎても現れることはなかった。
しかもそれは、もう四日前の話だ。
あの日二時間待っても楠木は一向に姿を見せず、まあ突然の呼び出しだったから仕方がないと、淳平は翌日、I高の生徒に同じ内容の手紙を託した。
なのにまたしても男は来なかった。淳平はその日も二時間待った。
そして次の日、また別の生徒に手紙を託した。
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