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手紙を握り締めたまま、楠木は寄り掛かった体育館の扉に、思わず拳を打ちつけた。
嫌な予感はしたが、なんかもう色々違う。詳細にして欲しい箇所がとにかく違う。
どうせ書くなら『果たし状』は表で良かったでしょ。
誤字も直ってないし、正直『拝啓』は無理しなくていいから。
夕方の五時が十七時だってこともわかってるし、図書館の近くには親戚の家があるから、指定された公園の場所も知ってる。
その情報はもう充分だから、肝心の日付と連絡先を、どうして入れてくれないんだ……!
唯一改善点があるとしたら、謎の『ござる』が無くなったことくらいだ。
行けるものならとっくに行ってる。
それが出来ないから、せめて連絡くらいしたいのに、相変わらず彼は名前しか書いてくれていない。
けれど早くも二通目が届いたということは、昨日の夕方、彼はもしかしてずっと公園で待ってくれていたんだろうか。だとしたら、それは素直に申し訳なく思う。昔から、人を待たせることは好きではないから。
ただそれを、相手に謝る術すらないのだが。
───また手紙が来たってことは、今日も待ってるんだよな、多分……。
相変わらず熱意の篭った文字を繰り返し追う楠木の背に、休憩時間の終了を告げる主将の声が容赦なく飛んでくる。
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