side.楠木 2

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 だが、連日届けられるこの手紙は、今まで受け取ったどんなものとも違う。手紙の送り主のことが気になったのは初めてだった。 「集合!」と主将の声が体育館に響いて、楠木は慌てて手紙をポケットに仕舞い、他の部員と共に主将の前に集まる。 「今日は二年の進路指導があるから、各自基礎練やって、五時半に切り上げだ」  ───五時半。  主将の声に、楠木はチラリと壁の時計を見遣る。  指定された時刻は五時。五時半に練習を終えて、どんなに急いで公園へ向かっても、恐らく着くのは六時ごろになる。一時間の大遅刻だ。  ……それでも、待っててくれますか?  返ってくるはずのない答えを確かめるように、楠木は服の上からポケットの中の手紙をそっと押さえた。  部活を終えて大急ぎで着替えを済ませた楠木は、いつもなら丁寧に畳んで入れる練習着やタオルをカバンに押し込むようにして、部室を出た。  そのまま走って、図書館の方へと向かう。  日々の部活や筋トレでのお陰で、公園まで走っていくだけの体力は充分ある。  図書館の手前の路地を折れ、そのまま突っ切った先に、手紙で指定された公園がある。中央にゾウの形の滑り台があり、後は砂場とブランコがあるくらいの、小さな公園だ。この近くに住む従兄と、子供の頃何度か遊んだことがあった。     
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