side.淳平 1

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 きょとんと目を瞬かせる母に見送られて、淳平は玄関を出た。  まだ朝だというのに、照り付けてくる陽射しが容赦ない。残暑厳しい蒸し暑さに、つい顔を顰める。  ……そう。 『高校デビュー』と言いながら、今は九月。今日から始まるのは二学期。しかも淳平は、現在高校二年だ。  心と身体の準備に一年半という、思いの外長い期間を要してしまったが、例え高ニの二学期からでも、在学中なら立派な『高校デビュー』だから問題ない。……多分。  さて。生まれ変わった淳平を見て、クラスメイトたちはどんな反応をするだろう。  ざわつく教室内の空気を想像しただけで、うっかり口許が弛んでしまう。すれ違いざま、犬を連れた女性に向けられた訝しむ視線にも気付かず、淳平は浮つく足取りで学校を目指した。  ───おかしい。  ざわざわと賑やかな教室内で、淳平は席に座ったまま頭を抱えた。  クラスがざわついているのは、別に淳平の激変した姿の所為じゃない。単に、休憩時間になったからだ。  今朝、登校してきた淳平は努めていつも通りに、ただし内心全力のドヤ顔で教室に入った。  淳平の予想では、その瞬間、教室中でどよめきが起こるハズだった。その空気の中を、颯爽と突っ切って着席する……予定だったのに。なのに!     
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