2咬み目

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「なぁ、銀、お前来週うちの会社の先輩に会ってくれるか?」 俺の太ももに顎をのせて無防備に頭を撫でさせている銀に聞く。ウトウトしていた瞳が真っすぐに俺を見る。なぜだ?と聞いているのだろう。 「別に彼女とかじゃないから。ただの先輩、なんか銀みたいな大型犬に興味があるんだってさ。心配しなくても触らないって約束してくれたし、怖い人じゃないから、な?少しだけ我慢してくれ。」 わかった、というようにまた目を閉じる。銀のアイスブルーの瞳は不思議だ。見つめられると逸らせない。嘘もつけない。なかなか無い色だからだろうか、奥まで見透かされているような、かと言って冷たくない暖かい印象を抱かせる。 フワフワの頭を撫でながら耳を指の間にはさめる。俺は昔から銀の耳が大好きだった。人よりも体温の高い犬の体、触れれば暖かいのに、薄い耳だけは少しひんやりとしていて、指で触っていくうちに段々と俺の体温と混ざり合って暖かくなる。その過程が好きで仔犬の頃から無意識に触れてしまう。 本来、犬や猫は耳や尻尾の付け根など自分で触れない場所を触れられるのを嫌がるそうだ。怒って噛む場合もあるそうで。そしてそれは銀も例外じゃない。母や直江であっても耳を触るとパタパタと動かして触れない様にしていた。決して怒りはしないが、こんな風に指に絡めるのを許してはくれない。 お前は特別だと言われているようで嬉しくなる。
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