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2咬み目
せかせかと早歩きで帰る途中、後ろから声を掛けられた。
「優牙?」
「え?」
母が亡くなってから俺を優牙なんて呼ぶ奴は数える程しかいない。
「直江か?」
「やっぱり!後ろ姿が似てると思ってたんだ、お前の綺麗な頭は健在だな!」
今日はなぜか髪の毛の話がでる日らしい。じゃなくて…
「悪い、直江、銀がトイレ我慢して待ってるんだ。急いで帰らなくちゃ!」
「おぉ、悪かった、後で遊び行ってもいいか?」
「そうしてくれ、銀も喜ぶ。」
がちゃりと鍵を開けるとすやすやと、まだ寝ている銀がいた。良かった、間に合った。
「ただいま、銀。寝てるとこ悪いけど、1回トイレ行こう?」
ゆさゆさと、少し強めに起こすと俺を見て嬉しいのと、寝ているところを邪魔されて不機嫌なのとで、ものすごく複雑そうな顔をしながらも立ってくれた。
「今日は後でお客さんがくるんだよ。銀も覚えてるだろ?直江が来るんだ。」
首を少しかしげながら俺の話を一生懸命に聞く銀。わかった、というように鼻をフン、と鳴らした。
それから1時間程経った頃、滅多に鳴らない来客のベルが鳴った。
「久しぶりだな、まずはお袋さんに挨拶させてくれ」
「あぁ、頼む」
ちりん、と澄んだ音色を上げて、リンが震える。間もなくお線香の独特の香りが鼻をくすぐる。
「さて、次は銀だな、久しぶり、銀!トイレは間に合ったか?」
わしわしと頭を撫でられて気持ちよさそうにしていたのに、さいごの一言に気分を害したらしい銀は思いっきりヴ~と唸った。
「なんだよ、冗談だろ、俺と銀の仲だろ?」
直江は銀が心を許す貴重な奴で、俺とは小学生からの腐れ縁?幼馴染?ってやつだ。
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