何かを追う者、そして追われる者

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「土方さんから、今がいつなのか聞いたか?」 「どうやら元治元年五月だそうですよ」 「やはりそうか」 翌日。 朝餉の手伝いをして、膳を広間に並べているとすでに座っていた藤田さんに聞かれた。 起きてから土方さんに訊ねたところ、元治元年五月だと言われたのだ。 藤田さんは、その日付を聞くと額を押さえて、苦々しい表情に変わる。 「何か問題でも?」 「問題があるとしたら……お前のその格好だな」 「いたっ!?」 藤田さんは、抑揚の無い声で言ってから、首を傾げる私の頭を手の甲で叩いた。 叩かれた頭を擦って睨みつけるとあからさまな溜息を吐かれる。 「いつまでスーツで居るつもりだ」 「こっちの方が動きやすいんですよ」 藤田さんの指摘に私は、適当な言い訳を言って、苦し紛れの笑顔を見せる。 着物の着方が分からないなんて言えるわけがない。 既に着物を着こなしている藤田さんに『分かりません』なんて言えば馬鹿にされるに決まっている。 「早く着物に着替えろと土方さんに言われているだろう。いや今は、そんな話がしたいのではなく、元治元年といえば、新選組が一番活動していた時期。池田屋事件が起きた頃だろうな」 「そ……、そうでしたか?」 「ああ、できれば四国屋の部隊に配属されたいところだな」 話を切り替えた藤田さんは、不安な表情を見せて、こめかみを押さえた。 私達が降り立ったこの時代は、幕末の動乱期として教科書によく載っている。 この時代、天皇を擁護する尊皇派と幕府を擁護する佐幕派で対立していた。 尊皇派は、主に長州藩、他肥後藩などが占めており、この頃の京都では、尊皇活動が盛んであったらしい。 この活動に乗じて、治安が悪くなったため、新選組などが結成されたそうだ。 といっても私が覚えているのは、こんなものであり、藤田さんだともっと知っているだろう。  
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