ぬくもりが消える前に

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ぬくもりを感じられなくなったのはいつからだろう。 伝えてもらった感謝の気持ちも、気遣いも、初めからこの世界にはなかったかのように、どんなに美しい言葉を聞いても、心は鉛のように重い。 映画やドラマを見て感動もするし、涙も出る。 なのに誰かの温かい言葉は、私の心を震わせない。むしろ、息苦しささえ感じる。 深夜0時を過ぎていた。 私はパソコンを閉じ、席を立った。 オフィスの隅に設置されたコーヒーメーカーが、ブゥンと低い音を立てて、豆を挽いている。 このオフィスにやってきたばかりコーヒーメーカーは真新しくピカピカで、昼間は人気者だった。 私は注ぎ口に空の白い紙カップを置き、青く光っているカフェラテのボタンを押した。 黒い液体が注がれていくのをぼんやりと眺めた。 注いでいるうちに、コーヒーの香りが漂ってくる。黒い液体を注ぎ終わった紙カップに、白いミルクが注がれる。 黒い液体と混ざり合って、薄い茶色の液体になった頃、コーヒーメーカーが静かになり、私は紙カップに手を伸ばした。 薄い紙カップは、手で持つと熱くて手を離しそうになる。上の方を持ち、私は席に戻った。 机の上で閉じたノートパソコンが、怒るようにファンを回していた。熱を放出するために風を出すのを、私は風邪を引いた人間のようだと思いながら、カフェラテを飲んだ。 特別美味なわけでも、特別不味いわけでもなかった。飲み込むと、喉の奥で温もりを感じ、 ひんやりとしていた心が温かくなる。 それは長らく感じていなかったぬくもりだった。 ぬくもりが戻ってきた理由はわからない。 このコーヒーに使われているのはどこの国で採取された豆なのか。どんな花が咲くのか。誰が運んだのか。ひとつとして知らない私がそれを飲んでいることに安らぎを覚えたから? それともただ疲れていたから、温かいものに心が震えた? 暖かであるはずの感謝の言葉や気遣いより、 無機質なもののほうが温かく感じる。 オフィスのドアの隙間から、冷たい風が流れ込んできた。 私が紙カップを持って立ち上がるとオフィスに残ったひとりぼっちのために、コーヒーメーカーはまた豆を挽き始めた。 ぬくもりがほしい。 私はまた、青く光るボタンを押した。
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