第一章 浅草

5/5
前へ
/6ページ
次へ
「なににされます?」 「ハマグリとビールで!」 メニューに大きく書いてあったハマグリ6個入りを頼んで、ビールを待つ。 ジョッキで来るかな?と思ったら、ハズレのアタリ! 大好きな瓶ビール! 自分で小さなグラスに注いで、泡が溢れそうになるまえにグラスをくちに付けた。 しゅわしゅわと喉を走る炭酸、苦み。その後の麦の香りがふんわり広がって……。 お、美味しい! 「はい、お待ちどうさま!」 ビールを飲んでいると、早速浜焼が来た。良く焼けて醤油の香ばしい香りが出ているハマグリ。だけど、出てくるの早くない? 「あの……。こんなに早いもんなんですか?」 「いやいや、あっちの席の人らが、自分らの焼いてる分先にあなたに出してあげてって。」 指さされた方には、さっきの白塗りの役者さん。 微笑んでビールを掲げている。正面からみるとこんなに美しいんだ、なんてびっくりするのはつかの間、会釈をした後にビールを私もあげて、エアー乾杯! ハマグリはひとつ口に含むとじゅわっと広がって、その弾力と塩気でビールがしっかり進む。 6個なんて多いかな? と思ったけど、そんなことはない。これなら何個でも入っちゃう。 貝本来の磯の香りと食感、奥にある甘味……。浜焼、最高! プレミアムフライデーも、たまにはいいものだ。ビバ! プレミアムフライデー! なんて、自分は単純だなと思いながらも酔いが回る頭の中で考えていた。 よし、近場を沢山旅しよう。やめるまでに。 なぜそう思ったかはわからない。だけど、最寄り駅から40分の場所でも、ブラックフライデーがプレミアムフライデーに思えるほど気持ちの変えられるスポットがあったのだ。 先のことはわからないが、もしかしたら、面白い何かがあるかもしれない。 こうして私の「東京道中膝栗毛」は始まったのであった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加