午後15時17分、ミルクを買いに

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午後15時17分、ミルクを買いに

はじまりは、担任のあまりに雑な一言だった。 「ついでで悪いんやけど、どっちか牛乳、()うてきてくれへんか」 「えー、この暑い中ですかぁ?」 「資料運びまでさせておいて、その上パシリかいな」 「スノーマンブランドの『牛さん おおきに』500ミリパックな。  別の買うてきたら次の定期考査マイナス5点」 「センセ、諸々パワハラやで」 「私、親にお使い頼まれてるんで帰りま……」 「お釣りで好きなもん買うてええから」 先生が、よれよれの白衣のポケットから締まりの悪いガマ口を取り出し、 雑に折り畳まれた1枚のお札を私たちに突き出した。 「たけくらべ」の作者の頭が映る、紫がかった紙幣だった。 「私が」「俺が」同時に叫ぶ。 「なぁ二宮、外めっちゃ暑いで~、俺に任せとけって」 「丸谷こそ、5階から重い荷物運んで疲れたやろ? 私が行くから」 「なんやお前、親のお使いはどうしたんじゃ」 「それ、明日やったって思い出したんや」 「じゃかあしい! お前らここ何処(どこ)や思っとるんや!!!」 誰よりもやかましい怒声を浴びたのは言うまでもない。 「仲良(なかよ)う二人で行ってこいや。牛乳腐らんように用心せえよ」 そんな言葉とともに、私と丸谷は クーラーがガンガンに効いている職員室から追い出された。 …………。 どちらからともなく、1メートルほどの距離を取って、 校舎から街に繋がるなだらかな坂道を歩く。
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