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不満な人生
両親はどこにでもいる普通の人間。
世間的には何不自由のない家に生まれ、育てられた。でも俺はその毎日にいつも苛立っていた。
多分性根の問題で、環境のせいじゃない。今ならそうだったと判る。
わがままが聞き入れられなければ泣き喚いて暴れ、成長して力が強くなれば暴力に訴えた。
体格も腕力も上回るようになったから、小言を言おうが怒鳴ろうが、父親なんか怖くも何ともない。泣き続ける母親はうるさいだけ。
そんな二人と顔を合わせるとますますいら立ちが募って、ある日俺は叫んだ。
「厄介者扱いするなら、俺なんか産まなきゃよかったんだよ!」
その直後、意識が絶えた。
気づいた時、俺は暗闇の中にいた。
目を開くことはできない。でも不快じゃない暗さと、妙に居心地のいい温かさに包まれている。
どこかも判らないその場所で、ただじっとしていたら、近い位置から声が聞こえた。
「せっかく生まれてこれたのに、何がそんなに嫌だったの? だったら僕が生まれるから、代わってよ…お兄ちゃん」
そういえば、俺には双子の弟がいたと聞いたことがある。でもその弟は、母親の腹の中でもう死んでしまっていたらしい。
代わってくれと訴える、こいつはいったい誰だろう。そしてこの、暗いのに心地よくて温かい場所は。
「不満だらけだったんだもん。いいよね」
* * *
仏壇に置かれた小さな位牌。俺の魂の住処はここだ。
弟も、ずっとここにいたらしい。手も今は俺の代わりに命を得て生まれ、荒れることなく両親と穏やかな毎日を過ごしている。
「こんなに普通に暮らせるのに、なんであんなに苛々してたの? まぁ、お兄ちゃんは生まれたくなかったんだもんね。だから、生まれてよかったって心の底から言える僕が、お兄ちゃんの生きる筈だった一生をしっかり過ごすよ」
お参りのフリで話しかけてくる弟の声。もう俺は、どんな不満をうっえたることもできないまま、それを聞いてるだけしかできない立場だ。
不満な人生…完
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