不満な人生

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

不満な人生

 両親はどこにでもいる普通の人間。  世間的には何不自由のない家に生まれ、育てられた。でも俺はその毎日にいつも苛立っていた。  多分性根の問題で、環境のせいじゃない。今ならそうだったと判る。  わがままが聞き入れられなければ泣き喚いて暴れ、成長して力が強くなれば暴力に訴えた。  体格も腕力も上回るようになったから、小言を言おうが怒鳴ろうが、父親なんか怖くも何ともない。泣き続ける母親はうるさいだけ。  そんな二人と顔を合わせるとますますいら立ちが募って、ある日俺は叫んだ。 「厄介者扱いするなら、俺なんか産まなきゃよかったんだよ!」  その直後、意識が絶えた。  気づいた時、俺は暗闇の中にいた。  目を開くことはできない。でも不快じゃない暗さと、妙に居心地のいい温かさに包まれている。  どこかも判らないその場所で、ただじっとしていたら、近い位置から声が聞こえた。 「せっかく生まれてこれたのに、何がそんなに嫌だったの? だったら僕が生まれるから、代わってよ…お兄ちゃん」  そういえば、俺には双子の弟がいたと聞いたことがある。でもその弟は、母親の腹の中でもう死んでしまっていたらしい。  代わってくれと訴える、こいつはいったい誰だろう。そしてこの、暗いのに心地よくて温かい場所は。 「不満だらけだったんだもん。いいよね」 * * *  仏壇に置かれた小さな位牌。俺の魂の住処はここだ。  弟も、ずっとここにいたらしい。手も今は俺の代わりに命を得て生まれ、荒れることなく両親と穏やかな毎日を過ごしている。 「こんなに普通に暮らせるのに、なんであんなに苛々してたの? まぁ、お兄ちゃんは生まれたくなかったんだもんね。だから、生まれてよかったって心の底から言える僕が、お兄ちゃんの生きる筈だった一生をしっかり過ごすよ」  お参りのフリで話しかけてくる弟の声。もう俺は、どんな不満をうっえたることもできないまま、それを聞いてるだけしかできない立場だ。 不満な人生…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!