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はじまりの森
「そこだー、追い込めー」
ハンドルネーム「ヤマオトコ」さんが叫んだ。アーチェリーを構えたハンドルネーム「xyz」さんが仕留める。矢が刺さったうさぎにみんなが群がった。3日ぶりの肉だ。髭ズラのヤマオトコさんがよくやったと長身のxyzさんを褒め称えた。
二体のうさぎをヤマオトコさんが手際よく解体して鍋にする。大学院生の「キノコグルイ」さんが採ってきたキノコと一緒に煮込む。いい匂いが漂っていた。
「タナカさんの魔法は本当にすごいですね」
アナスタシアさんが鍋に当てられてる火を見ながら僕に微笑んだ。
「アナスタシアさんの方がすごいじゃないですか。飲める水が出せるなんて」
アナスタシアさんの魔法はただの水を出せるわけではなく飲料水を出せるのだ。彼女は雑菌のほとんどない水を出せた。おかげで僕たちはお腹を壊すことがなかった。
「それでこれからどうするの」
みんながその言葉に彼女を注視した。
声を出した彼女はアナスタシアさんのそばにいた女性である。名前を佐藤りなさんといい、アナスタシアさんを心配してついてきた同級生の友達だった。
はじまりの森に来てから20日あまりが経っていた。魔王を倒すどころか日々の食い扶持にも困る生活を送っていた。
「もう帰りたいんだけど」
そう彼女は訴えた。
僕たちはうなだれた。多くのみんなも同じことを思っていたんだろう。だが、帰るすべはない。
「まだ、始まったばかりじゃない」
うなだれていた僕たちはその声を聞いて頭をあげた。アナスタシアさんが立ち上がって拳を握りしめていた。こういうことは僕が言わないといけないのにと思いながらアナスタシアさんに感謝していた。
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