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疑惑
失意のドン底でさまよい歩く。1ヶ月たった今も未だにはじまりの森から、抜け出せないでいた。
いつもの食後の会議で一つの議題が上がった。ここはもしかしたら迷いの森なんではないかと。ゲームの世界では一定の条件をクリアしないと抜け出せないダンジョンがある。もしかしたらこれがそうではないのかと。
「水浴びに行きたいんだけど」
そんな重要な会議の途中で佐藤さんは立ち上がってアナスタシアさんと席を離れようとした。僕が魔法で火をつけた薪がゆらゆらと揺れていた。
僕は思い切って声をかけた。
「いつも、どこに行ってるんですか」
「そこの泉だけど」と佐藤さんは答える。アナスタシアさんはなぜか目をそらしていた。
「でも、自分が探索した時、泉なんかありませんでしたよ」
佐藤さんはヘヘッと笑って、秘密の場所にあるんだと答えた。
二人が去った後、残りの4人は近すぎるぐらいに顔を近づけていた。
「なんかおかしいですよね」
大学生のキノコグルイさんが呟いた。
「帰ってくる時、ホクホクしている。まるで温泉に入ってきたようだ」
そうヤマオトコさんが僕に顔を近づけてくる。僕に息がかかって鼻がもげそうだ。
「じゃあ、こっそりついていきましょうか」
xyzさんがあっさり提案する。みんなは首を傾げた。なんやかんやでこの人たちは紳士なんだなと僕は見直すのだった。
「でも」とキノコグルイさんが呟いた。
「僕たち臭くないですか」
1ヶ月近く僕たち男性陣は水浴びどころか風呂にさえ入ってなかった。
「やるんですか」
ヤマオトコさんが苦渋の表情で訴えかけた。この人は相当純らしい。
「手段を選ぶべきではないです」
キノコグルイさんが呟く。
「運動の後にシャワーを浴びるのが至福でした」
xyzさんが高校時代を思い出して、夜の空を見上げた。
僕たちのミッションが始まろうとしていた。
どちらに行ったのだろうか。あてもなく彼女達を探してる僕たちはなんと滑稽なのだろうか。
「足跡がある」
ヤマオトコさんは松明を地面に掲げながら叫んだ。
「追っては近くにいるぞ」
悦に入っているヤマオトコさんに突っ込む気力もなく僕たちは進んだ。あるべき場所へと。
この後、僕たちは目の当たりにする。この世界の成り立ちを。
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