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あるべき場所
たどり着いた場所には決まりの悪い彼女達の顔。
僕たちは扉が開かれているのを目の当たりにしていた。
「あはは」と佐藤さんは笑い、所在なきげにアナスタシアさんは地面を見ていた。
開かれた扉はどこか懐かしい現実世界を映し出していた。まだ異世界に来て1ヶ月ぐらいなんだと僕は思った。
異世界に来る時と同じように扉が開いていた。僕は合点がいって悲しくなった。
「行き来出来るんですね」
僕の声なき声に佐藤さんは、再び「あはは」と笑った。
「公序良俗に反してなくてよかった」
そうキノコグルイさんは安堵した。公序良俗って何と僕は思った。
「実は私も魔法使いだったりー」
彼女は笑っていたが、男性勢は引きつっていた。
「まあまあ」
アナスタシアさんになだめられて僕たちはキャンプ地に戻った。
焚き火の前で何回めかわからない会議が始まっていた。
「実は私も魔法使いだったりー」
ポテトチップスを口に入れながら、佐藤さんは申し訳ないとみじんも思ってない態度だった。そのポテチも現実世界から持ってきたんだろう。僕はちょっとイラついていた。
「それはさっきききました。なんで黙ってたんですか」
近づく僕に彼女はこう言った。
「ちょっと臭くない?」
「ふざけんなー」
僕が今までこんなにキレたことがあっただろうか。子供の頃からおとなしいと言われ続け、学校の先生からも優等生だと言われていた僕がこんなに怒りをあらわにすることは無かった。ゲームやアニメが好きだった僕が唯一勇気を出して目指したこの地が苦労の連続で風呂にも入れず、はじまりの森さえ出ることは出来ない状態でストレスがたまっていたのだろう。ゲームには自信があったが、現実の壁はあまりにも高かった。
「男が臭くて何が悪い」
ヤマオトコさんがフォローを入れてくれたが、フォローになっていたんだろうか。
「それだけじゃなくて、実は」
あくびをひとつすると途中で話を切り上げて佐藤さんがテントに入って行こうとする。まだ、話が終わっていないと手を伸ばすが、アナスタシアさんが間に入って手を合わせた。
「明日ちゃんと話します」
そう言い残してテントに入っていった。女性用のテントにまで殴りこむことはできなかった。
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