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「御手洗健(みたらいたける)さん。アナタは異世界の勇者に選ばれました」
日課であるコンビニバイト帰りのランニング。
そのルートの途中にある河川敷の橋の下で、健はそう声をかけられた。
人目のない夕方すぎの河川敷。
その薄暗い橋の欄干の下で。
声の主は15、6才といったところの少女だ。
中学生か、あるいは高校生か。
ともかく学生であることは確かだろう。
そして、先のセリフからして少女が中二病発症者だということも……。
うん、間違いないね!
ダメな娘だ、こりゃ。
可愛いのに、残念!
脳裏でそう断定して、健はくるりと少女に背を向けた。
「あ、そういうのは結構です!」
一応の礼儀として一言告げて、駆け出す。
遠回りにはなるがいたしかたない。
ここはいったん逃げて、別ルートで帰ることとしよう。
うん、それがいい。
そんなことを思いつつ、猛ダッシュで来た道を戻る。
「あっ!ちょっ、ちょっと!!」
後ろで少女の焦りに満ちた声が追いかけてくるが、それで止まるわけがない。
だって、いきなり初対面の人間に「アナタは異世界の勇者に選ばれました」だぞ?
いくら可愛くても許容範囲外だ。
「待って!待ってったらぁ!」
誰が待つか!と健はわき目も振らずに足を動かして続け、500メートルほどの先にあった土手へと上がる石段を駆け上がった。
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