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わずかな沈黙。
そっと健は肩に掛けているナップサックのポケットからスマホを取り出した。
そうしてからスマホを持っていない手で差し込んだままの鍵を回す。やはりギギ、と軋んだ音を立てるドアを五センチほど開けてーー。
迷わずスマホの画面に指を滑らせる。
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「……あ、すいません。家に不審者がふほ」
不法侵入、と言いかけた健の顔面をものすごい勢いで開いたドアが強襲した。のけぞって鼻先で避けたその奥から、今度は玄関先で正座していた少女が強襲する。
結構な勢いで飛びついてきた少女の拙い胸の感触に「うほっ」と反応してしまったのは健全な若さゆえだ。
思わず前に突き出して手がバッチリその柔らかい膨らみを捕らえたのも、あくまでも偶然である。
正当防衛、あるいは不可抗力というもので。
「い、いやあぁぁっ!チカンっ!!」
甲高い悲鳴にぎょっとしてから、すぐに胸に触れたのとは逆の手にスマホを持ったままなのを思い出した。
ちなみに通話中のままだ。
「や、待て!違う!ーー違いますからっ!誤解ですからっ!!」
前半は少女に向けた。
後半はスマホの向こう110番通報窓口に向けてのセリフ。
「ちょっ、待って!マジ!まずいから今!!ケーサツきちゃうからっっ!?」
ハンズアップの体制で後ずさりしつつ、とりあえずスマホの通話を切る健。
そんな健に少女は何故か「ふふっ」と笑ってーー。
「つーかまえたっ!」
と健の身体をハグした。
瞬間。
エスカレーターが上昇し、停止する時のような。
あるいは飛行機が浮上する時のような。
耳の奥がざわつくような奇妙な浮遊感に包まれたかと思うと、目の前が真っ白になった。
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