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これは編集者としての癖だった。
残尿感と切迫感――自分ではなんとなく分かっているつもりだが、両者の違いを説明しろと言われると、ちゃんと答えられる自信がない。つまり杏の中では、この二つの言葉ははっきりとした輪郭を持って存在している言葉ではなかった。だが、烏鷺は”そこ”に何かを感じているようだった。だったら本人に説明してもらうのが早い。言葉の意味を曖昧にしたまま会話を続けていると、後で痛い目に会う。それにこのことが不快感を解決できる鍵になるならありがたいことだ。
「切迫感は我慢できない感覚。残尿感は残っているなという感覚です」
烏鷺は答えた。
「切迫感のほうです」
杏もすぐに答える。
「それなら処方できる薬があります」
烏鷺は少しほっとしたような表情を浮かべた。杏もかすかな光明を見つけたような気がした。
「ただし、その薬には口の渇きや便秘、眼圧上昇などの副作用もあります。緑内障はありますか?」
「ありません」
「わかりました。あとは、そうですね。これは膀胱を広げる薬なので、切迫感は解消すると思いますが、効果が現れるまでに時間がかかりますし、症状が軽くなったからといって、簡単にやめることはできません。それでも飲みますか?」
「飲みますか……って、決めるのはわたしなんですか?」
烏鷺の最後の言葉に違和感を覚えた杏は、またもや、質問を質問で返してしまった。すると、烏鷺は「そうです」と、さも当然のように答える。「僕はどちらでもいいので」
一難去ってまた一難だな、と杏は思った。
この頃にはだいぶ落ち着きを取り戻していた杏は、烏鷺の、この”どちらでもいい”という、聞きようによっては、無関心ともいい加減ともとれる言葉を冷静に受け止めることができた。だが人によっては怒り出してしまうだろう。「気のせい」とか「どちらでもいい」という言葉は、助けを求めている患者にとって、時に、冷徹で残酷な刃となる。
だが、彼はこう思っているに違いない。
『自分は事実を述べているだけ』
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