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「なぁに? そんなにあたしにあなたの子供産んでほしいの……」
「子供? ……分かんない」
「この前、ちょっと怖かったんだからね。できちゃったらどうしようって……まだ結婚してもないのにって……」
「結婚……?」
「フフ、まだそんなこと言ってられないよね」
結婚と、彼女の口から聞いて、ふとあの響きを思い出した。
婚約者。
――まだそんなこと言ってられないかもしれないけど……。
正直、子供が欲しいとも思わない。
ただ彼女のことを抱きたい。
「ロンが、そんなわがまま言ってくれるなんて、うれしいの」
彼自身はそれをわがままと言われてもピンと来ないのだが。
ただただ、彼女に会って彼女のことを腕に閉じこめていたいだけの話だ。
「婚約者」になればそれが叶うんじゃないかと。
「あたしもわがまま言っていい」
「わがまま……おれに?」
「『アンジーのことが好き』って言って」
「『アンジーのことが好き』」
「そんな棒読みじゃなくて……」
「そう言えと言った」
「やぁだ、心込めて言ってったら」
「……」
自分は彼女の声を耳に受け止めるだけで体が温かくなる。
きっと直接会って腕に抱いたらもっと温かくて満たされるだろう。
彼女もそれで満たされると思う。
だから直接会いたい。 お互いを満たすため。
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