アンジーは?

23/23
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/319ページ
「なぁに? そんなにあたしにあなたの子供産んでほしいの……」 「子供? ……分かんない」 「この前、ちょっと怖かったんだからね。できちゃったらどうしようって……まだ結婚してもないのにって……」 「結婚……?」 「フフ、まだそんなこと言ってられないよね」  結婚と、彼女の口から聞いて、ふとあの響きを思い出した。  婚約者。 ――まだそんなこと言ってられないかもしれないけど……。  正直、子供が欲しいとも思わない。  ただ彼女のことを抱きたい。 「ロンが、そんなわがまま言ってくれるなんて、うれしいの」  彼自身はそれをわがままと言われてもピンと来ないのだが。  ただただ、彼女に会って彼女のことを腕に閉じこめていたいだけの話だ。 「婚約者」になればそれが叶うんじゃないかと。 「あたしもわがまま言っていい」 「わがまま……おれに?」 「『アンジーのことが好き』って言って」 「『アンジーのことが好き』」 「そんな棒読みじゃなくて……」 「そう言えと言った」 「やぁだ、心込めて言ってったら」 「……」  自分は彼女の声を耳に受け止めるだけで体が温かくなる。  きっと直接会って腕に抱いたらもっと温かくて満たされるだろう。  彼女もそれで満たされると思う。  だから直接会いたい。 お互いを満たすため。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!