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彼女は椅子を僕の席に寄せると、磁石のS極とN極のように僕は自分の椅子を遠ざけた。澪標さんは意外とパーソナルスペースが広い。だからこそ、この僕にここまで近づくことが出来るのだろう。そんな彼女に対して、僕は狭い方だ。流石の僕もこの至近距離では少しどぎまぎしてしまう。
「えと、どの辺が分からないんですか?」
「なぜ数学を学ぶのか」
「あ、そういう哲学的なことじゃなくてですね」
「すみません・・・んー、ここかな?」
そう言うと、僕は計算途中の数式を指差した。すると、澪標さんは顎に手を当て、問題文に顔を近づけた。
「あ、これなら簡単ですよ!これはです・・・ね・・・」
彼女がこちらを振り向くと、僕らの顔は目と鼻の先くらい近くなっていた。それはもう彼女の前髪で隠れた瞳が見えるほどに。ちらりと見えた彼女の眼はとても綺麗だった。
「す、すみません!」
「・・・うす」
お互いにそっぽを向いて、一定の距離を保った。
「・・・あ、じゃあ解き方教えますね・・・」
「・・・お願いします」
何とも言えない気まずさの中、僕は澪標さんから訓育を受けた。彼女の解説は僕にとっても分かりやすいもので、理解はそう難しくなかった。
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