第一章 始まり

10/18
前へ
/61ページ
次へ
ヴェンとノエルがまだ幼い頃、ヴェンの父であるルークは今日も朝日が上がるよりも先に畑の様子を見に来ていた。 農業区では若い力が少なく、もう何年もの間働き手が足りていない状況だ。 街の老人たちが困り果て、頭を抱えている様子を放っておけなかったルークは、自ら志願して農業区の手伝いを申し出た。 手伝ったからといって、お金が沢山もらえる訳でもない。 報酬としては収穫された米や野菜、そして老人たちからの感謝の声だ。 ルークの労働に比べてその報酬は見合っていなかったが、ルークは街の住民の為なら自分の苦痛ぐらい我慢できた。 「ふー、こんなもんか」 額にかいた汗を拭い、ルークは大きく息を吐く。 朝から畑仕事を終えると、ルークは家には帰らずにそのまま工業区へと向かう。 ルークの本職は工業区にあり、朝から夕刻までそこで働く。 西にある農業区を北上した所に工業区があり、そこにはいくつもの煙突から煙が上がっている。 見るからに体に悪そうな煙を上げる工業区は、多くの工場が立ち並ぶモノづくりを行う場所だ。 街の大抵の物はこの工業区で作られていた。 会社に着くと、自分の持ち場で今日のスケジュールを確認し、作業に取り掛かる。 専用の設備で、決められた時間内に決められた個数を取る単純作業だ。 今日の仕事は開発区で使われる部品の生産。 こんな部品何個も何に使うのだと疑問に思うぐらい、大量に作り込む。 一時間、二時間程度なら我慢して見てられるが、これが長時間になると地獄のような辛さになってくる。 ルークは毎日この過酷な作業と精神的な戦いをしていた。 工業区の仕事を終えると、帰り道にもう一度農業区で畑仕事をしてから帰る。 ルークにとっては農業区の仕事の方が、単純作業をしている工業区の仕事より飽きないし作るという楽しさを感じていた。 だが、生活に必要なお金を稼ぐには農業区では少しキツイ。 実際にルークには養うべき家族があり、まだ小さい子供と家で待つ妻の為にお金は必要だった。 これが農業区にとって大きな問題で、若い世代の働き手が少ない原因でもあった。 賃金に換算するとかなりの安月給で、とても家族を養っていくには厳しい仕事なのだ。 それでも誰かがやらないとキャストタウンの腹は満たされず、空腹に悩む人が増えてしまう。 そう考えた王族は、既に現役を引退した老人たちを集め、作物を作らせたのだ。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加