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ルークは真っすぐに家には帰らず、一度開発区の方へと向かう。
「レットリート」と書かれたバーに入り、カウンターに座る一人の男性の横に腰を落ち着かせた。
「一緒のものを」
カウンターに立つ若いマスターにそう伝える。
隣に座る男のグラスを指し同じものを注文し、来ていた上着を脱ぎ、椅子の背もたれに掛ける。
「家に帰らなくてもいいのか?」
隣に座る男がグラスに手を掛け、ルークに話しかける。
赤茶色のクルクルした髪の毛は目に掛かり、その隙間からルークをのぞき込む。
「一杯飲んだら帰るさ。それよりもギル、例の件どうなってる?」
「問題ない。もうじき出来る」
「そうか」
ルークは運ばれてきた酒を手に取り、ギルのグラスにコツンと当てる。
一日の疲れを取る至福の時間は、どんなものにも代えがたい。
グラスの中の酒を一口飲む。
口の中に残るほのかな香りと、のど越しが堪らない。
ルークは神妙な面持ちでギルと話をした後、家族の待つ家に帰る。
家ではルークの帰りを待つ妻と、そしてベッドで気持ちよさそうに寝ているヴェンの姿がある。
時間のある時はヴェンと沢山遊び、妻への愛情を注ぐのも忘れないルークは誰から見ても良き夫であり、良き父だった。
こんな良心的で街の住民にも愛された男にもある想いがあった。
それは『この街を変えること』
街の造りや地形という意味ではなく、根本的なところから変える必要があるとルークは考えていた。
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