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そうすることで住人たちの不安を取り除き、外部との交流を促進するのが目的だったのだろうが、長く植え付けられた概念はそう簡単には取り除けない。
現にノエルもこの話をちゃんと聞くまでは、森の外に行くなんて不可能だと感じていたのだから。
ヴェンと別れ、ノエルは重い足取りで自宅に帰る。
別に絶望を味わった訳ではないが、ヴェンの話があまりにも想像を超えてしまっていた。
「ただいま」
暗い表情をしたまま自宅に入る。
「おかえり」と明るく出迎えるのはノエルの母、ラミだ。
テーブルには豪華な料理が並べられ、ラミはリズミカルに鼻歌を歌いながら鍋にあるスープをかき混ぜている。
「今日はノエルの誕生日だから奮発しちゃった」
柔らかく笑う彼女の顔は、優しさで溢れていた。
食卓には美味しそうな匂いが充満し、ノエルの腹の虫が騒ぎ始めていた。
晩御飯の完成を大人しく待っていると、ようやくラミが料理を終え、椅子に腰を下ろす。
二人で手を合わせ「いただきます」と声を揃えた。
二人分の料理にしてはとても食べきれない量が用意されている。
湯気を立て、ノエルの鼻、目を更に誘惑する。
見ているだけでよだれが溢れて出てくる料理を飛びつくように食べる。
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