第二章 真実

6/17
前へ
/61ページ
次へ
ノエルの身に何か起きたのではないかと心配するヴェンは、風が吹き止むのを待った。 しばらくすると吹き荒れていた風も止み、目を開けることが出来た。 「ノエル。大丈夫か?」 よく見るとノエルがいつも身に着けているある物が無い。 肌身離さず身に着けているそれは、父から譲り受けた大切な物で、ノエルがそれをどれだけ大切にしていたかも知っている。 心配そうに駆け寄るヴェンを他所に、ノエルは突然と走り出す。 「おい! 待てよ!」 ヴェンも必死になって後を追うが、ノエルとの差はどんどん離れていく。 日頃から街を走り回っているヴェンは、足の速さや体力には自信があったのだが、そう思っていたことが恥ずかしくなるほどにノエルは速かった。 大切な物が風に飛ばされたことで、無我夢中になっているのだろうけど、それにしてもトップスピードを維持したような走りは、後ろから見ていても凄い気迫だ。 あの突風で飛ばされたのはノエルのトレードマークであるハンチング帽。 父から譲り受けた先代からの帽子で、ノエルはその帽子を実に気に入り大切にしていた。 それがあの突風で飛ばされ、森の方へと向かって飛んでいく。 風に乗り、空を踊るかのように宙を舞い、ヒラヒラと森の中へと吸い込まれていく。 ノエルは森に入っていくその帽子を見て「待って!」と大きく叫ぶが、当然帽子に意思はないので止まりもしない。 それどころかノエルを森の中へ誘い込むように消えていく。 帽子を追い、森に飛び込もうとするノエルだが、目の前にある森が「おいで」と手招いているように見える。 森は不気味に笑うかのような表情で、この先に入ると二度と出てこられないと思わされるほど暗く、濁った雰囲気が漂っていた。 ノエルの足が森の目の前でピタッと止める。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加