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「さぁ朝刊だよー! みんな読んでくれー!」
彼は朝から大声で住宅区を走り回り、肩から掛けているカバンからチラシを取り出してはあちこちにバラまいていた。
ノエルは自分の前に落ちたチラシを拾い上げ、それに目を通す。
そこにはこう描かれていた。
『森の外にはどんな世界が広がっているのか?』
この街の外の世界を想像して描いたのか、チラシの絵には多彩な色で塗られたなんとも奇妙な絵。
五歳児の落書きの方が上手ではないかと疑いたくもなる。
だが、見る人によればその奇妙な絵も芸術的な作品なのかもしれない。
「またあんたかいヴェン! いい加減にしなさい!」
彼の名はヴェン。
いつも騒々しく街中を騒がせているちょっとした有名人だ。
大きな声で近所の住人から罵声を浴びるヴェンは、それでも街中を走り続け、そのチラシを配り回った。
ある時は噴水の広場で木箱に乗り、自分の立てた仮説を多くの人に語ったりもしていた。
住民達はヴェンのことは指さして笑い、中には面白半分で聞き耳を立てる者もいたが、それは興味本位でヴェンの考えに賛同している訳ではない。
ヴェンは笑われようが、けなされようが毎日『森の外』について街の住民に訴えかけていた。
ノエルはそんなヴェンに興味が沸き、そしていつも間かヴェンの人間性に魅かれていた。
ヴェンは学校でもその異端ぶりを放っていた。
二人は同じ学校に通い、同じ授業を受けるのだが、授業中ヴェン以外の生徒は、キャストタウンで上手に生活する方法を学ぶのに対して、ヴェンは森の外でどうやって食料や物資を確保するかを考えていた。
そして休み時間になると、ヴェンは隣に座っている人を捕まえては自分の考えをいくつも聞かせていた。
こんなことを続けている内に、ヴェンの周りからどんどん人が離れて行く。
それは上に投げた物が頂点に達し、次第に下へと落ちてくる程、至極当然の出来事だった。
この街の住人にとって、ヴェンの行動と発言は理解し難い。
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