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「ヴェン! こんな時間までどこ行ってたんだい!」
大声で怒鳴りつける小太りな女性。
「ごめんないさい、マーガレットさん」
「すぐに飯の支度しな!」
家の中には丸テーブルが一つと椅子が三つ並んでおり、床には小さな机が一つだけ置かれていた。
キッチンは割と手狭でヴェンは慣れた手つきでご飯の支度をする。
そこにトボトボと歩いてきた子供が、ヴェンの服を引っ張る。
「ヴェン、一緒に遊ぼう」
子供はヴェンの服を何度も引っ張り、手に持ったブロックで遊ぼうとヴェンを誘っていた。
「ごめんねトム。ご飯食べてから遊ぼうね」
ヴェンの言葉に納得したのか、コクリと頷きトムは部屋に戻っていく。
今日のご飯はスープにそしてマーガレットさんが買ってきたお肉を焼いた。
そして丸テーブルにはパンを並べ、それぞれの椅子の前にお皿とスプーン、フォークを並べる。
床にある小さな机がヴェンの特等席だ。
丸テーブルにはマーガレットさんに息子のトム、そしてマーガレットさんの旦那のジェイさんが座る。
ヴェンはこの家に住まわせてもらっており、代わりに家事やトムの世話をしていた。
お小遣いなんてものはないし、贅沢は何一つ出来ないが、住む家と服、そして食事があるだけでもありがたい事だと思っていた。
「ガシャン!」
振り返った時にヴェンの肘がコップにあたり、床に落ちる。
その衝撃でコップは割れ、破片があたり一面に飛び散った。
「お前何やってんだ!」
コップが割れた音を聞いて、ジェイさんが奥の部屋から飛んできた。
そして床に散らばったコップの破片を見て、状況を理解した後、ヴェンの顔を思いっきり殴り飛ばし、罵声に暴力を加える。
だが、ヴェンにとってこんなのは日常茶飯事だった。
すみませんと何度も頭を下げ、相手の気持ちが落ち着くまでただただ耐え続けるのだ。
こんな日々が幼い頃から幾度となく繰り返されていた。
ジェイさんの怒りが収まるとヴェンは床の破片を片付ける。
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