第一章 始まり

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そして途中だった料理の支度が出来ると、奥の部屋でくつろぐ家族を呼びに行く。 まずは家族が先に食事を行う。 その間、ヴェンは外に出ておくのが決まりなのだ。 家族の時間を邪魔しない。 これがここで生活していくルールの一つでもあった。 そして家族が食事を終え、テーブルに残った料理がヴェンのご飯になる。 今日のご飯はお肉が一切れと、トムの食べかけのパン。 そして三人の皿に少し残ったスープを集めて一つに皿に移した。 こうして残ったご飯を小さな机の上で一人寂しく食べるのだ。 「ヴェン。これ」 声のする方へ振り向くと、そこにはパンを胸に抱えたトムがいた。 ヴェンの為にパンを一つとっておいたようだ。 「いいのかい? トム」 トムは何も言わずに頷くとヴェンにパンを差し出した。 「ありがとう。そうだ、また森のお話でもするかい?」 ヴェンはトムからパンを受け取ると、モグモグとパンを口に含んだまま森の外の話を始める。 トムはそんなヴェンの話が大好物なのか、食いつくように夢中になっていた。 ヴェンが食事を終える頃には話も終わり、少しだけトムと遊んでから食事の片づけを始めた。 マーガレットはトムとヴェンが仲良くするのを嫌うので、二人は適切な距離感を保つようにしていた。 「トム。そろそろ戻ってな」 トムも状況を理解しているのだろう。 ヴェンの言うことを聞き、奥の部屋の部屋へと戻って行った。 食器を洗い、机を綺麗に拭き、床の掃除をしてからヴェンも部屋に戻る。 ヴェンの部屋は部屋というよりも物置に近かった。 家の不要な物が置かれており、整理整頓もされていないような埃っぽい場所だ。 ヴェンはそこに寝る場所だけを確保して暮らしている。 「ふー。疲れたな」 そう言いながら横になり、一通の手紙をポケットから取り出す。 その手紙はボロボロで字もあまり読めないぐらい汚れていた。 『街の外には私たちの知らないことが沢山ある。この街はまだその謎を知らない』 ヴェンは言葉を何度も読み返していた。 小さい頃からそれは何度も何度も。 「……父さん」 ヴェンの目からポツリと落ちた涙は、紙に染み込み広がっていった。
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