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キャストタウンの朝を眩しい日差しが照らす。
いつもは眠い目をこすりながら登校するノエルだが、今日は少しだけ足取りが軽快だった。
立ち並ぶビルを抜けると、今日もまたヴェンがおかしなことをやっていた。
カラフルな衣装に帽子を被り、おかしなダンスを踊っている。
どこからか流れる音楽に合わせて体を動かし、街中を踊り回っていた。
ノエルはその光景を楽しそうに眺め、今日も学校で面白い話が出来ると高揚していた。
「やぁヴェン。今日はなんであんな格好をしてたの?」
「外には楽しいことが沢山あるんだよって伝えたくてさ」
こんなヴェンと会話する人なんて街にも学校にも殆どいない。
毎日おかしな事ことをやっては周りの大人を困らせ、街中から変人扱いされる。
だけど、そんなヴェンにもノエルという変わり者の話し相手ができた。
二人は人前で会話することはなかったが、二人きりになるとそれぞれの意見や思考を交換し合い、それは楽しそうだった。
「だから外には人間がいるんだって!」
ヴェンは熱く語る。
外の世界の妄想をして、毎日何か考えてはノエルにぶつけていた。
「そうかなぁ? でも外から人なんて来たこと無いし、外にはいないんじゃない?」
ノエルは問いかける。
森の外の情報はこの街には0に等しいので、外に人がいるとは考えづらかったのだ。
現にこの街の住人はみな、この街で生まれ育った者ばかりで、森の外からやってきたなんて人に出会ったことはない。
「それを確かめに行こうよ!」
ヴェンは立ち上がり、ノエルの両肩を掴んで言った。
ノエルは二人で外の世界について口論するのは楽しいが、わざわざ街の外まで事実確認をしに行く必要はないのでは、と思った。
というよりも今ヴェンがそれを言うまでそんなことを考えたことがなかった。
ノエルの両親を始め、この街の住人は森の外について全くの無知と言ってもいい。
そもそも森の外について疑問すらない。
ノエルもまた、そんな両親から生まれ、育てられたので、森の外について考えることなんてなかったのだ。
「でも……。外には危険だってある。簡単には行けないよ」
誰に教わった訳でもない。
ただノエルの体が、頭が外の世界は危険だと。そう判断した時には言葉となっていた。
力の無い声でそう言うと、ノエルは塞ぎこむ。
ヴェンも少し寂しそうな表情を浮かべ、二人の間に沈黙が続いた。
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