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風が木々を揺らし、鳥はさえずり、のどかな昼下がり。
雲一つない晴天の空とは対象に、二人の間にはどんよりとした重い空気が張り詰める。
「オイラの夢はさ。この街の病気を治すことなんだ」
長い沈黙を破り、ヴェンが唐突に語り出す。
いつもの陽気の声とは違い、少し暗く丁寧に話す口調から普段との違いはすぐに汲み取れた。
「病気?」
「そうさ。この街の人たちは外のことを知ろうともしない」
ノエルはヴェンの言っていることが全く理解出来なかった。
それもそうだ。
ノエルもまたこの街の病気にかかっている一人なのだから。
「ノエルはさ、明日から食べ物に困ったらどうする?」
「うーん。食べるのを我慢するかな」
「ずっと? これから先何も食べ物がなくても?」
「それは困るけど、そうなった時に考えるよ」
ノエルは少し困った表情を浮かべた。
「オイラがこの街が病気って言ったのはね、みんな危機感が無いってことなんだ」
「危機感?」
「ノエルもさっき言ったじゃん。そうなった時に考えるって。でもそれじゃ遅いだ。既に住宅区では食べ物や住むとこに困ってる人がいるのに、人ごとにして笑ってられるほど簡単な問題じゃないんだ」
ヴェンは熱く語った。
この街に起こっている現状と、街の人たちがいかに危機感がなく危険な病気かを。
「でも、それは王族の人たちがなんとかしてくれるんじゃ……」
「それっていつなんだ? 王族なんてあてにならない。自分たちの手でやらなきゃ」
ヴェンは真剣な表情でそう言い、ノエルの方を見た。
その視線には二人でこの街を変えようと訴えるような熱い視線だ。
「ヴェンはなんでそこまで真剣なの?」
ノエルはヴェンをここまで突き動かすものがなにか、それが気になっていた。
気付けばいつもヴェンのことを目で追いかけ、やること成すことに興味が沸いてしまうのは、ヴェンの考えや行動に関心があったからだ。
ノエルもまた変わり者に違いないだろう。
「オイラの父さんもさ、森の外に出ようとしたんだ」
ヴェンは一つ間を置いて、ゆっくりと語り始める。
それはまだ二人が幼く、この街の病気なんてものに侵される前の話だ。
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