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あの後、レナエルが部屋に来る事はなかった。当然心細くはなったが、紛らわせるようにして努力を続けた。
その甲斐あって早々に手術が決まり、手術自体も成功を収めた。
術後、両親は初めて僕の前で泣いた。その涙が本当に嬉しくて、僕まで泣いてしまった。
そうして、その後の辛いリハビリを経て、僕は今日入院生活を卒業する。
「退院だって!? おめでとう!」
準備をしていると、噂を聞きつけたナースが二人部屋に入って来た。両親は、昼頃迎えに来てくれるそうだ。
「ありがとうございます、お世話になりました」
「ずっと頑張っていたものね。私、泣いちゃいそう」
一人のナースが、目蓋を擦り泣き始めた。こうも感動されると何だか照れてしまう。
切っ掛けを作ってくれた存在が無ければ――レナエルが居なければ僕はこうしていなかっただろう。もしかすると、あのまま病魔に屈していたかもしれない。
レナエルには、本当に感謝だ。
「これできっと、レナちゃんも報われるわ……」
――えっ?
「しっ、それは言わない約束でしょ!?」
ナースの一言が耳に引っ掛かった。気のせいじゃない。今、確かに聞こえた。
「……レナ……ちゃん?」
ナースの表情が変わる。やってしまったと言わんばかりの苦い顔だ。チラリと僕を見て、横のナースを見た。
「もう良いじゃない。レナちゃんだって本当は知ってほしかったはずよ」
「……そうね」
そして、何やら二人で納得していた。泣いていない方のナースが静かに口火を切る。
「ここに、毎日のように女の子が来ていたでしょう。金髪碧眼の綺麗な子よ」
それは、紛れもなくレナエルだった。
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