2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっとー真樹央サイテー、セクハラー」
「僕がセクハラなら姉ちゃんは露出狂だな。自分から見せつけておいてセクハラもなんもないだろ。てゆーか撮影長すぎ。ぽめが可哀想だろ。そろそろ散歩の時間なのに」
「うっ……しまった、もうそんな時間……」
ぽめを溺愛する姉、さすがにそのぽめを引き合いに出されては引き下がるしかないのだろう。彼女は渋々とスマートフォンをひっこめた。そして表示されている時刻を見てため息をつく。
「あーもうこんな時間ー。アサトとのデートなければあたしがぽめのお散歩に行けるのにぃー」
彼氏よりわんこ優先かよ、よっぽどだなおい。なんて突っ込みは野暮だ。今更すぎる。彼氏もなんでこんなわんこバカな姉と付き合うことにしたんだろうか。それとも彼氏の前では猫を被っているのか。弟からすれば永遠の謎のひとつである。
「たまには彼氏も大事にしてやれって。やっとデートの都合ついたんだろ。向こうは姉ちゃんより忙しい仕事してんだから、むしろちゃんと感謝しろって。……ほら、ぽめ行くぞ」
「あーんぽめが連れてかれるぅ!誘拐されるぅ~」
まだうだうだ抜かしている姉を無視してぽめを抱き上げると、賢いポメラニアンは大人しく僕の腕の中に収まった。いろいろあって首輪は二階に置いてある。散歩の前はかならずぽめを連れて、一度二階の僕の部屋に上がるのがお約束になっていた。それには、非常に大きな理由があるのだ。
「愛されてんなお前。……まあ見た目は可愛いもんな。見た目だけはな」
僕はあくまで普通の大学生にすぎない。
だが――僕らの愛犬、ポメラニアンのぽめは。普通の犬とは、だいぶかけ離れているのだ。
僕の部屋に入り、鍵をかけるやいなや。ぽめはしれっと僕の腕の中から抜け出して、ベッドの上に飛び乗った。そして。
「あー酷い目に遭った。一時間はやりすぎだろうが。いつまで付き合えばいいのかと思ったぜ。つか真樹央テメー、なんでもっと早く助けにこねーんだよ!人が困ってるの分かってただろーが!!」
喋った。
そう、我が家の愛くるしいわんこは。――僕の目の前だけで、何故だか喋るのである。しかも。
最初のコメントを投稿しよう!