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「ローレンス君」
指揮者がそうやって、尊称で呼ぶのは、少年たちの中でも僕に対してだけだ。
誇らしく首筋を伸ばして、僕は「はい、なんでしょう」と返答した。
「こんな時期だが、この子は、今度新しく隊に入るアンドリューだ。面倒をみてやってくれ」
指揮者の左わきに、明るくつややかな赤褐色の髪の少年が立っていた。
「アンドリュー、彼はミスタ・ジョセフ・ローレンス。聖歌隊のリーダーでソリストだよ」
指揮者は、新入りに顔を向けると、そんな風に僕を紹介した。
そう、クリスマス生まれの僕の名前は「ジョセフ」なんだ。よりにもよって。
だからなおさら、「ミスタ・ローレンス」と呼ばれることが、僕はうれしかった。
「やあ、アンドリュー。これからよろしく」
言いながら僕は、右手を差し伸べる。
おずおずと、手を握り返してくるアンドリューに、僕は続けて訊ねた。
「君、聖歌隊は初めて? どこかで歌ってた?」
「……歌ってた、ちょっと」
ごく子供っぽく、とらえどころなく、アンドリューが応じる。
「ちょっと?」と訊き返し、「君、いくつ」と、また問いかける。
「九歳」との返事に、僕は「ああ、そんな歳だろうな」と瞬いた。
「今年の、クリスマス礼拝のコーラスに出たいかい?」
すこし皮肉半分に言ったつもりだったけど、意外にも、アンドリューはコクリと頷いた。
ならば……と、僕はパート練習中の第二ソプラノの子たちの方へと歩き出す。
でもアンドリューは、そこに突っ立ったままだったから、振り返って、
「おいで」と手を差し伸べてやった。
アンドリューがすぐに、軽い足音をさせて、僕に駆け寄ってくる。
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