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もちろん、僕の声はすでに変わっていた。
まだ、しっかりと安定しきってはいなかったけれど、変声期にミックスヴォイスで必死に歌う……なんてこともしていなかったから、喉は傷めずにすんでいたはずだ。
そのコーラス隊は男声のみのグループで、メンバーの中核は十代後半から四十代までと幅広かった。
歌唱はなかなかのレベルで、あちこちで公演したりもしていた。
僕も、そのグループの存在ぐらいは知っていたけど、歌からはことさらに背を向けていて、それ以上の認識は持ってなかった。
そこで僕はまさしく、「一から歌い直す」ことになる。
ずっと歌っていなかった僕は、低い音域の胸声での歌唱や正しいファルセットなんか、まったく分かっていなかったからね。
「声変わりに無理に歌って、おかしな癖がつくこともある。逆に良かった」と、グループのメンバーは、そんな風に慰めてくれたけど。
そうして――
そこで、僕は恋も知った。
大人の男の歌い方を教えてくれたあるひとに、僕は淡い恋をした。
デートに連れ出す女の子たちと、自分はどうしてステディな関係になれなかったのか。
その理由が、やっと分かった。
多分、その人も僕に惹かれていたはずだ。
そのうち、練習のためにふたりきりとなる時間は、ひどくもどかしく落ち着かないものになっていった。
僕は性的にも成熟しつつあって、彼との肉体的な接触を渇望し始める。
密室の空気は、いつしか甘い香りを帯びていた。
偶然を装って、僕は彼のシャツに何度か触れた。
でも彼は、僕の子供じみた稚拙な手管に崩れ落ちないほどには、十分「大人」だった。
だって、僕は十五。
まだたった、十五だったから。
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