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1 糸の繋ぎ目
ピピピ、ピピピーーと高音が鳴り響く。
「うう………、まだ寝たい……けど……、起きなきゃ……」
スマホのアラームで私ーー木下陽愛は目が覚めた。一定のリズムで高音を鳴り響かせるそれは、相変わらず気分を上げるものではないが、反ってそれが良いと、最近になって思い始めていた。
まだ布団の温もりを味わっていたい欲を抑え、ベッドから抜け出しパジャマを脱ぐ。髪を手櫛で簡単に整えながら、姿見の前で制服を着る。校則通りのスカートの丈に、派手でも地味でもないいつもの自分が完成したところで、母が大きな声で名前を呼ぶ声が耳に届いた。
「はーい、もう起きてるよー!」
起き立てのやや低い声で、一階にいるであろう母にそう叫ぶと、今日使うものを適当に鞄に入れて、部屋を後にした。
父の朝はドリップ珈琲から始まる。リビングはそのほろ苦い匂いで満たされ、その中に母が作った朝食の美味しそうな匂いが混じる。今日は、味噌汁と目玉焼きだろうか。
「毎日、寝坊しないで偉いな、陽愛は」
「ありがとう、お父さん。でもそれ毎日聞いてる言葉だけど、他に褒めるところないのかな?」
「うーん、困ったなぁ。ぱっと出てこないや。お父さんも歳かな」
父はそう言って冗談っぽく口を大きく開けて笑ったが、それほど面白く感じず、父の笑いを無視して、テーブルの上に置かれたオレンジジュースの入ったコップに手を伸ばし、一口飲む。しかし、つまらない冗談だったとしても、朝の仕事前に場を楽しい雰囲気にしようとする父の姿は、割合と好きだ。
「お母さんは陽愛の良いところちゃーんと知ってるわよ」
朝食の準備が終わった母は、そう言いながら、エプロン外してテーブルについた。
「はい、ではいただきます」
三人揃っての「いただきます」は、木下家の毎朝の恒例だ。どんなに忙しくても家族で揃ってご飯を食べる、それが家族のルール。
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