1 糸の繋ぎ目

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「ーーあ、しまった」  一限目が終わり、次の時間は体育だ。あまり運動が得意でない自分にとって憂鬱な時間である。どんよりとした気持ちで体操着に着替え終わった後、鞄の中を探っていると、思わず声が出た。 「どうしたの?」  横で着替えていた友達ーー五十嵐奈菜(イガラシナナ)が、心配げに声を掛けてきた。菜奈とは一年の時から同じクラスで一番の友達だ。 「後ろの髪、邪魔になってきたから結ぼうと思ってたのに、肝心のヘアゴム忘れきちゃったんだ。次、バスケだよね? どうしよう……諦めるしかないかな」 「私も予備持ってないんだよね、力になれなくてごめんね」 「ううん! 全然っ! ていうか自分のせいだしね」  髪を結ぶことは諦めて、奈菜と体育館に向かおうとした時、「ーーあの」と、背後から声を掛けられた。振り向くと、男子生徒から「可愛い」と評判のクラスメートーー松井ほのか《マツイホノカ》が立っていた。  いつも綺麗に整っている肩より少し長い髪が少しだけ揺れ、ふんわりと甘い香りが鼻を掠める。 「ま、松井さん……?」  私達と松井さんは、同じクラスだけど、容姿端麗な彼女は、常にカースト上位にいる集団に属している為、全く接点がない。そんな彼女から突然声を掛けられたら、多生なりともどもってしまうのは致し方ないことだろう。  びくびくと彼女からの返答を待っていると、「良かったらこれ……」と彼女らしい繊細な声色で、白いシュシュを手渡された。 「えっと……」 「あ、迷惑だったら良いんだけど……、木下さん、ヘアゴムが無いって困ってたでしょ? 良かったら使って」 「え、良いんですか……?」 「勿論っ……!」  彼女からの突然の親切心に、有り難さよりも動揺の方が大きく、探るような目で彼女を見ると、優しげな瞳が私をしっかりと見詰めていた。  その瞳に同性ながらも思わずはっと息をのむ。 「あ、ありがとう、ございます」  小さな声で礼を言うと、彼女はにこりと頬笑み、私達の前から去って行った。 「びっくりしたぁ……」 「ね。松井さん、いきなりどうしたんだろう」  隣で事の成り行きを見ていた奈菜も驚いたらしく、暫く二人の頭の中にはハテナマークが浮かんでいたが、手に持っているシュシュを見詰め、「折角だしね……」と、松井さんの親切心に答えるように、借りたシュシュで髪を一纏まりにした。  ーーそういえば、今日のラッキーカラーって白だったっけ。  ふと、今朝見た占いの結果が頭に浮かんだ。  このシュシュも白だ。  偶然だと思うけど、なんか良いことでも起こったりして……?  普段は占いなど気に留めないのだが、その時は違った。  その勘が当たるのは、体育が終わって直ぐ後だった。
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