1 糸の繋ぎ目

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 体育の授業が終わり、奈菜と二人で教室へ戻ろうと体育館と教室がある本館を繋ぐ渡り通路を歩いていた時、クラスメートと楽しそうに談笑する滝君を発見した。  目が合ったら恥ずかしい。ずっと見ていたい気持ちよりも、そういう気持ちの方が大きく、半ば俯きながら、彼らの横を通りすぎようとしたーーその時。 「待って、木下さんっ!」  凛と通る、男子にしては幾分高い声が、自分の名字を読んだ。  声の主は、振り向かなくても分かる。  彼、滝君ーーだ。 「木下さんっ、ごめんごめん、ちょっと良い……?」 「あ、う、うん……」  突然のことに動揺して振り向くのが遅かったせいか、後ろから肩をトントンと叩かれた。 「滝君? 陽愛に何か用?」  奈菜はサバサバしていてクール。私と違いはっきりと物事を言うタイプである。突然、話し掛けてかた彼を不信に思ったのか、怪訝な顔で彼を見た。 「うん。ちょっと木下さんに確認したいことがあって」 「確認、したいこと……?」  やはり直視出来ない。  徐々に火照る頬を隠すように、一度だけ、彼の顔を見た後、そっと視線を外した。 「……何?」  小さい声、だけど精一杯の気持ちで問う。 「あのさ、そのシュシュって木下さんの?」 「あ、これは、体育の前に松井さんに借りて……」 「やっぱり、そうなんだ」 「……?」  だからなんだと言うのだろう。  彼の質問の意図が分からず、奈菜と顔を見合わせた後、彼女がはっきりとした口調で「それが何? 何か気に障るようなことでもあったの?」と言った。 「ちょっ……! な、奈菜っ……」  奈菜のキツい口調に焦って声が裏返る。  奈菜は私が滝君の事を好きだとは知らない。まだはっきりとした気持ちではないし、そもそも告白とかは全く考えておらず、自分の心の中に閉じこめておくつもりでいる為、話していないのだ。  当然、私の気持ちなど知りもしない彼女は、いつものようにサバサバと彼を責める。 「相変わらず辛口だな、五十嵐は」  滝君は慣れた様子で苦笑する。  そういえば、奈菜と滝君って同じ中学だったっけ。  いつの日か奈菜と話していた会話を思い出し、この二人のやり取りが普通なのだと気付いたところで、少しだけ心が落ち着いた。 「ちょっとここじゃ言いづらいんだけど、相談したいことがあって」 「相談?」  私と奈菜の声が重なった。 「もう時間ないし、ゆっくり相談したいからさ、昼休み、一緒に食べながら話すよ。食堂で席とっとくからさ、いきなりでごめんな」  そう言って、滝君は私達の前から去っていった。 「相変わらずマイペース。意味わからん」 「……そ、そうだね」  惚れた弱みというものなのか。  一見、奈菜の言う通り、意味わからず頭がついていけてないけど、彼から話し掛けられた嬉しさと、一緒にお昼を食べれるという突然のサプライズイベントに、少しだけ、いや、かなり、心が舞い上がった。
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