1 糸の繋ぎ目

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 ーー昼休み。  滝君との約束通り奈菜と一緒に食堂へ向かう。相変わらずの人の賑わいに少々戸惑いながらも、メニューを選んでいると、窓際の一番手前の席に滝君が座っているのが見えた。どうやら彼一人みたいだ。注文した食事を受け取ったあと、彼が座る席へ足を進め腰を下ろす。  ドキドキ、ドキドキ。  隣に奈菜、目の前に滝君。緊張するなという方が無理だった。 「いやいや、急にごめんね、五十嵐、木下さん」 「え、あ、……ううん」 「で、相談したいことって何?」  持ってきた食事を食べる前に、奈菜は本題を切り出す。 「いやー、急に変なことを言うんだけど……、お願いっていうか」  「お願い?」と、私と奈菜の声が重なる。 「松井のことなんだけど」 「松井さん?」 「そう、松井さん」 「……で、その松井さんの件で、どんなお願いをされるのかしら、私達」  奈菜が面倒くさそうに言う。  松井さんは体育の時間にシュシュを貸してくれた可愛いクラスメート。でも、そのシュシュは体育が終わって教室に戻った時に返したし、それくらいしか彼女との接点はないはず。だから、滝君に松井さんの事でお願いされる用件が思い当たらなかった。 「最近、松井さんのことで、なんか気付いたことない?」 「えっと、特には……。奈菜は?」 「あの子とはあんまり関わりないからね、私達」  二人で顔を見合わせた後、滝君の方に目をやると、「だよね」と苦笑された。 「五十嵐達は、松井達とはグループも違うし席も離れてるからな。実は、松井……、何が原因か分からないけど、あのグループでうまくいってないみたいで、最近、一人なんだよ」 「え……?」 「ふーん、そういうこと」  そういえば、確かにシュシュを貸してくれた時、いつもは大勢の人に囲まれているはずの彼女は、なぜか一人だった。今まで彼女達のようなキラキラしたグループとは関わることなど無かったから気付かなかったけど。 「……で、相談っていうのは、その一人になった松井さんをどうにか助けて欲しいとか、そんなところかしら」 「さすが五十嵐! 話が早い!」  ……なるほど。  確かに誰でも一人で過ごすのは寂しいよね。  あれ? でも、どうして私達なんだろう?  もしかして、松井さんからシュシュを借りてたから仲が良いと勘違いしてるのかな? 「えっと、滝君……? 申し訳ないんだけど、私達、松井さんとは、そんなに親しくないんだよね。だから、その……」 「勿論知ってるよ! でも、木下さんと松井って、雰囲気が似てるし、波長も合う気がしてさ。別に休み時間までずっと一緒にいて欲しいとか、そこまでじゃなくて、昼休みとか移動時間とか、そういうときに少しでも気に掛けてやってくれたらなって思って」  私と、美少女の松井さんが似てる?  滝君もおかしな事を言うもんだ。  でも、彼からのお願いを断る理由が思い付かなかった。 「それくらいなら……」 「まじ? ありがとな、木下!」 「ていうか、滝君が、松井さんと仲良くしてあげたら良いんじゃない?」 「五十嵐もわかってないなぁ~。男の俺が助けたら、余計に拗れるだろうが。こういう時は揉め事が悪い方向に転ぶ前に、見守りつつ、彼女が困らないように先手を打っとくのが一番だろ」 「その先手っていうのが私達の事ってわけね。……まあ、良いけどさ、どうして滝君が松井さんのことをそんなに心配してるの?」  奈菜の質問にはっとする。  確かに奈菜の言う通りだ。  どうして滝君は、松井さんのことを気に掛けているのだろう?  
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