…Love is full of fear…

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「あかり」 高原の声は、桜田を呼ぶときのような甘い響きは一切ない。 それは、嬉しくもあり、せつなくもある。 別れてしまったら、そんな冷たい声で名前を呼ばれるのか。 「仕事に行くんだろう?俺の貴重なプライベートの時間を邪魔するな」 何の感情もこもらない冷たいとさえ言える声で、彼は言った。 そしてもう、彼女には興味を失ったように、チラリともそちらを見ない。 そのかわりのように、不意に桜田に視線を向ける。 いとおしそうな、熱のこもった瞳。 「そんな顔するな、崇史」 繋いでいないほうの手で、そっと頬をくるまれた。 「過去にヤキモチを妬かれても、俺はお前より10年以上長く生きてるんだ、どうしようもない」 そんな顔ってどんな顔だよ。 桜田は、その温かい手に頬をくるまれているので俯けない。 表情を、隠せない。 きっと、酷い顔をしている。 酷い醜い顔。 「そんなの、わかってる」 それに、今、この胸でモヤモヤしているのは、ヤキモチだけじゃない。 でも、それを言葉にすることを、桜田は躊躇った。 「崇史?」 「……別れたら、あんなに冷たい声で、名前、呼ばれるんだなって思ったら、なんか」 不覚にも、声が震えてしまった。 それぐらい、きっと、いつの間にか。 そのひとを、どうしようもなく好きになっていた。 高原が、小さく嘆息した。 「別れる未来を想定されるとは思わなかった」 そして、繋いだ手を、ぐいっと強く引かれる。 腕の中に、抱き込まれた。 「やっぱり夕飯はルームサービスにしよう…お前がそんな顔をするから、今すぐ抱きたくなった」
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