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桜田は、そろりと手を伸ばして、ベッドの上に無造作についている高原の手に、そっと重ねた。
即座に握り返してこようとするその手を、ペチ、と軽く叩く。
ただ、重ねるだけ。
「エータはモテるだろ」
ボソリと言う。
「いっぱい女の子喰ってきただろ」
「うーん……否定はできないな」
ヌケヌケとそんな返事をするから、もう一度ペチッと手を叩いてやった。
今度は、すかさず握ってきたその手を拒まない。
高原のがっしりとした温かい手が、桜田は好きだ。
その手で、くせ毛を撫でられるのも、指を絡めた恋人繋ぎにされるのも、シャツのボタンを外されるのも、身体中を撫でられるのも。
「でもさ、過去のことは別にいんだよ」
彼は、絡められた指に視線を落としたまま、ボソボソと続ける。
「なんかモヤモヤするのは、あんたがそんなふうに喰ってきた過去の恋人みたいに、そのうち俺のことも捨てるのかなって」
今は、発情期の獣みたいに盛ってるけど。
そんなにヤってばっかりいたら、飽きられんのも早いのかなって。
「これまでの俺ならな、そう言われても反論できなかっただろうな」
それに、反論する気も起きなかった。
「下衆な男だと思われるだろうが、ヤキモチを妬かれるとか、そういうめんどくさいことが起きたら、その場で別れて二度と会わなかった」
俺は無駄が嫌いだからな。
「だけど、お前は違う」
どんなに抱くまで焦らされても執着したし、こんなふうに妬いてくれるのが嬉しいとさえ思う。
「俺のことでモヤモヤするお前が、可愛くて堪らない」
だから。
「手放さない、絶対に」
たとえ、お前が逃げたくなっても、もう逃がしてやれない。
握った手に力がこもり、ぐいっと引き寄せられた。
膝の上に抱き上げられる。
「別れることなんて、一瞬でも考えるな」
耳許に囁かれる声が、熱い。
「こんなに愛しいと思うのはお前が初めてなんだ…今まで付き合ったどんなオンナにも感じなかった想いだ」
高原の熱を帯びた瞳が、桜田を捕らえて離さない。
「嫌われたくない、なんて、思わされたのもお前だけだ、崇史」
桜田は、ふるりと背中を震わせた。
このひとに、ここまで言って貰えたら、もうそれでいい。
プロポーズとか、一生の愛とか、そんなものすらいらない。
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