…Love is full of fear…

6/7
902人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
桜田は、そろりと手を伸ばして、ベッドの上に無造作についている高原の手に、そっと重ねた。 即座に握り返してこようとするその手を、ペチ、と軽く叩く。 ただ、重ねるだけ。 「エータはモテるだろ」 ボソリと言う。 「いっぱい女の子喰ってきただろ」 「うーん……否定はできないな」 ヌケヌケとそんな返事をするから、もう一度ペチッと手を叩いてやった。 今度は、すかさず握ってきたその手を拒まない。 高原のがっしりとした温かい手が、桜田は好きだ。 その手で、くせ毛を撫でられるのも、指を絡めた恋人繋ぎにされるのも、シャツのボタンを外されるのも、身体中を撫でられるのも。 「でもさ、過去のことは別にいんだよ」 彼は、絡められた指に視線を落としたまま、ボソボソと続ける。 「なんかモヤモヤするのは、あんたがそんなふうに喰ってきた過去の恋人みたいに、そのうち俺のことも捨てるのかなって」 今は、発情期の獣みたいに盛ってるけど。 そんなにヤってばっかりいたら、飽きられんのも早いのかなって。 「これまでの俺ならな、そう言われても反論できなかっただろうな」 それに、反論する気も起きなかった。 「下衆な男だと思われるだろうが、ヤキモチを妬かれるとか、そういうめんどくさいことが起きたら、その場で別れて二度と会わなかった」 俺は無駄が嫌いだからな。 「だけど、お前は違う」 どんなに抱くまで焦らされても執着したし、こんなふうに妬いてくれるのが嬉しいとさえ思う。 「俺のことでモヤモヤするお前が、可愛くて堪らない」 だから。 「手放さない、絶対に」 たとえ、お前が逃げたくなっても、もう逃がしてやれない。 握った手に力がこもり、ぐいっと引き寄せられた。 膝の上に抱き上げられる。 「別れることなんて、一瞬でも考えるな」 耳許に囁かれる声が、熱い。 「こんなに愛しいと思うのはお前が初めてなんだ…今まで付き合ったどんなオンナにも感じなかった想いだ」 高原の熱を帯びた瞳が、桜田を捕らえて離さない。 「嫌われたくない、なんて、思わされたのもお前だけだ、崇史」 桜田は、ふるりと背中を震わせた。 このひとに、ここまで言って貰えたら、もうそれでいい。 プロポーズとか、一生の愛とか、そんなものすらいらない。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!