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本を手渡されて、桜田は、川嶋の顔を見た。
そうして、川嶋の顔を見たら、ふと、就活とは全然違う疑問が湧いてきた。
このひとは、極道の男を恋人にしていて、怖くはないのだろうか。
恋人が、ではなく、その恋人を喪うかもしれないことが。
「桜田君?」
「あの…就活とは関係ないんですけど」
桜田は、躊躇いがちに言葉を探した。
なかなか言葉を見つけられない桜田に、川嶋は手にしていた本を棚に戻す。
「桜田君、この後予定ある?」
「え?」
「なければ、僕のマンションにおいでよ」
何か、悩んでるんでしょ?
話、聞くよ。
今日の川嶋は、口調こそ淡々としたいつものそれだけれども、どこか優しい。
いや、そのひとは、感情があまり表に出ないだけで、実はすごく繊細な優しさを持っている。
先に歩き出した川嶋の後を追いかけようとして、その後ろから黒いスーツの男がスッとついて歩き出したのを見て、あっと思う。
川嶋には護衛がついている。
いつか、高原が言っていた。
そして、高原は、その護衛のほうの立場だ。
命を賭けて、主と仰ぐ相手を守る仕事。
川嶋の、恋人を守る側。
桜田の不安を、川嶋にぶつけてもいいものだろうか。
根本的に、立場が違うのではないか。
しかし、川嶋はどんどん行ってしまう。
桜田は仕方なく追いかけた。
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