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黒塗りの高級外車で川嶋のマンションに行くまでの間、桜田はそわそわと落ち着かなかった。
高原がデートに来るときは、基本電車だ。
高原は一応、昼間は某IT企業の社長をしている宇賀神の秘書ということだから、それなりに高給取りなんじゃないかと思うけれど、住まいは宇賀神の屋敷に居候だし、自分の車を持っているふうでもない。
身なりだって、それなりにきちんとはしているけれど、どこぞの高級ブランドとか老舗のオーダーメイドとかそういう感じではない。
だからこそ、普通にしているとあまり極道の男というふうには見えないのかもしれないけれど。
この車に乗ってしまってよかったのか。
川嶋に、この胸の中の不安をぶつけてしまっていいものか。
しかし、桜田の葛藤を余所に、車はあっさりと川嶋のマンションに着いてしまった。
「アキ、おかえり」
玄関を開けると、いきなりヌッと大きな影が川嶋を抱き寄せる。
「龍、待って…今日は桜田君が」
そのまま抱き上げられそうになって、川嶋が慌てた声を出した。
この人といる川嶋は、本当にいつもと全然違う。
「あ?」
不機嫌そうに聞き返した宇賀神が、桜田のほうを見る。
「子犬か」
ふん、と鼻を鳴らしたけれど、意外にもその男はドアを開けたまま、彼が中に入るのを待っていてくれた。
「お、お邪魔します…」
恐る恐るその脇を通り抜けて、中に入る。
「ホントに邪魔だ」
その低い迫力ある声で呟かれると、そのまま引き返したくなるけれど。
桜田が中に入るや否や、その人がバタンとドアを閉めてしまったので、帰るに帰れない。
チラッとその顔を見上げると……あれ?笑ってる。
「尻尾を丸めた子犬みたいだ…なるほど、高原が言うのもわかる」
ニヤニヤと笑いながら、彼はそう言った。
「高原は隣の部屋にいるぞ、呼ぶか?」
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