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「いえ、あの……」
口ごもる桜田に、川嶋が助け船を出してくれた。
「桜田君は僕と話があるの。龍は黙ってあっち行ってて」
「俺はお前が帰ってくるのを今か今かと楽しみに待ってたのに、冷たいな、アキ」
桜田と川嶋を交互に眺めながら、宇賀神は言葉とは裏腹にどこか楽しそうだ。
「後でじっくり埋め合わせして貰うからな?」
そう言って、スタスタと部屋の中へと入っていってしまう。
「桜田君、ごめんね…龍のことはいないものと思ってくれていいから」
川嶋にリビングへと導かれながらそう言われたが。
ソファにどっかりと陣取っているその男の存在感を無視しろというのは無理だ。
しかも、護衛されてるその張本人を目の前にして、高原の命が喪われるのが怖い、なんて相談できるわけがない。
「今、コーヒーでも淹れるから、適当に座ってて」
桜田の困惑には気づかず、川嶋はキッチンへ行ってしまう。
ソファの真ん中に当然のように座っている宇賀神から、なるべく離れた位置にそっと腰かけて、桜田はどうしてこうなったのだろう?と小さくため息をついた。
「冴えない顔してどうした?アキにお悩み相談か?」
浮かない顔をしてしまっていたのか、宇賀神が話しかけてくる。
「俺が解決してやろうか?」
訊きながら、そいつはニヤニヤしている。
そういう顔の人には、誰だってあんまり相談しないと思うけど。
「高原がしつこいか?あいつ、淡白そうに見えて結構激しいからな」
思わず、変な想像をしてしまった。
「え…う、宇賀神さん、エータと、まさか」
そして、それがそのまま口から零れる。
あっと思って口を閉じたが、目の前の男とバッチリ瞳が合った。
ブハッと、宇賀神が変な吹き出し方をする。
「何を想像してる?性格の話だぞ?」
笑いながら彼は、いかにも楽しそうに言った。
「そうか、あいつはベッドでもしつこくて激しいのか」
「ち、違っ…!」
いや、それも違くはないんだけど、違う!
頬に一気に血が上るのがわかる。
「それじゃあ、あいつはお前を本気で愛してるんだな」
サラリとそう言われて、桜田は聞き逃すところだった。
「淡白な抱き方しかしない、とあいつと関係持ったオンナはみんな言ってたが」
まあ、過去の話なんかお前は聞きたくないかもしれないから、このへんにしとくか。
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