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「そのとき、誓った。もう誰も俺のために死なせない」
でも。
「高原は、俺が襲撃されたら命を張って守ろうとするだろう」
だから。
「宇賀神会を、襲撃なんて許さないぐらい、絶対的に君臨する組織にする」
そして、そのトップの座にも、下克上とか考えられないぐらい完璧に君臨して見せる。
「それが、人の命を貰った俺の覚悟だ」
高原が、そのひとのために命を賭けたいと思う気持ちが、少しわかった気がした。
なるほど、この恐ろしい迫力を持つ男は、ただ恐ろしいというだけではないのだ。
きちんと、命の重みを背負って生きている。
そして、間違いなく人の上に立つ男だ。
「だから、お前の高原を、そう易々と死なせたりしない」
そんなことで、悩むな。
堅気の人間が、病気や事故で死ぬのと同じぐらいの確率でしか、俺のために死ぬなんてあり得ないようにするから。
「お前と同じではないかもしれないが、俺も高原を喪いたくなんかないんだからな」
そう言って、その男は、ニヤリと笑った。
「さて、これでお悩みは解決したな?」
「は?」
さっきまでの真剣な顔が、もうどこにもない。
「アキ、コーヒーはもういい。子犬の問題は解決した」
キッチンに向かって、声を張り上げる。
「え?桜田君?…龍、何言ったの?」
戸惑った顔の川嶋がキッチンから慌てて出てきた。
「俺が悩み相談に乗ってやったんだ」
ふん、と鼻を鳴らして、宇賀神は言う。
「それで、全て解決だ…子犬は高原に引き取らせる」
そう言いながら、彼はもう電話を手にしていた。
「え?え?ちょっと、龍!」
桜田君、何か変なこと言われなかった?
川嶋の心配そうな声に、桜田は「大丈夫です」と曖昧に笑う。
問題を全て解決することはできないけれど、闇雲に怖がることもない。
そう、言われた気がした。
そして、それが、なんとなく胸に響いた。
そうだ、普通の人だって、事故や病気で突然いなくなることはあるのだから、極道の男だからって特別なことではないのだ。
きっと、ずっと高原の側にいたい、と素直に思っていいのだ。
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