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高原は、宇賀神に呼び出されて、川嶋の部屋のベルを鳴らした。
珍しい時間の呼び出しだ。
川嶋が帰宅してから、まだ30分も経っていない。
普段なら、帰宅後すぐにベッドになだれ込んでいるか、或いは入浴中か、そんな時間だ。
何か問題でもあったのだろうか。
電話の宇賀神は、特に変わった様子はなく、いつもどおりの雰囲気だったが。
少し身構えながら、ドアが開くのを待つ。
「また、何かあったら遠慮なく言ってね」
ドアが開いた瞬間に耳に飛び込んできたのは、川嶋の柔らかい声。
そして。
「スミマセン、なんか、押しかけといて」
今、ここで聞くはずのない声。
「解決したならいいんだ、龍が変なこと言ったんじゃないなら」
「失礼だな、即解決だっただろ。俺は優秀な相談相手だ」
宇賀神が被せるように口を挟み、それから高原を見た。
「お前は今日はもう休暇だ、コレを連れて帰れ」
その指差す先にいるのは。
「崇史…どうしてここに」
「えっと、いろいろあって」
困ったように、叱られた子犬みたいに上目遣いで彼を見てくる桜田は、高原がそれ以上追及するのを躊躇うぐらい可愛い。
「その、就活で悩んでたら、本屋さんでたまたま川嶋さんに会って」
それで、なりゆきでここに。
「僕が強引に連れて来たんだから、怒らないであげて、高原さん」
川嶋の取りなすような言葉に、高原は黙って頭を下げる。
「子犬、悩み相談ならいつでも乗ってやるから、アキより俺を頼ってこい」
宇賀神は、どこか悪戯っぽく付け足した。
「それと、今夜はしつこくて激しいかもしれないけど、それも愛だからと思って頑張れよ」
「はあ?!なっ、に…言ってんの!」
一瞬で真っ赤になった桜田を見て楽しそうに笑いながら、その男は玄関のドアをさっさと閉めてしまう。
高原は、真っ赤な桜田をぐいっと抱き寄せた。
そして、低く囁く。
「ここに来たことについては別に怒らない。お前は姐さんと交流があるんだ、そういうこともあるんだろう」
でも。
「そんな顔、他の奴に見せるな」
それが例え、若や姐さん相手でも。
「若に嫉妬してしまいそうだ…お前にそんな可愛い顔をさせることができるなんて」
ぎゅうぎゅうと胸板に顔を押しつけるように抱きしめられて、息苦しいことこの上ない。
桜田は、少し抗議するようにその背中を叩く。
腕の力が緩んだと思ったら。
顔をやっとの思いでその胸から離して息継ぎしたところを、今度はキスで唇を塞がれる。
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