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中学最後の短い夏休みが終わった後、花屋に行った。そこにもう、シロはいなかった。
店長さんにそう告げられ、ただただ呆然とし、足が震え、もう会えないんだと思うと、吐きそうなくらい胸が苦しくなった。
そうか。あぁそうか。
結局、これが現実なんだ。釣り合わない。逆立ちしたって届かない。ちょっとレベルアップしたつもりでイイ気になってた、あーあ、バカだね、わたし。
本気で笑けてきて、店長さんの前でグフフと変な笑い声を立ててしまった。
せめて大人だったら。あと五年早く生まれていたら…。
帰り道。
西日に背中を照らされながら、重だるい足を何とか交互に前に出して歩いていると、惨めな細い日焼けした腕に、突然涙がぼろぼろこぼれて落ちてきた。
あれから毎日、匂いを我慢しながら塗っていた美白化粧水は、ちっとも役に立っていない。
そうだ、あの化粧水のせいだ。
猛烈に腹がたって、家に帰ってからすぐ、あの青い瓶を思いきり叩き割ってやったけど、床の上に散らばった青い欠片たちは残酷にもひどく美しく、シロの撒き散らす夕方のシャワーのようで、悔しくて、苦しくて、止まっていた涙がまたドウドウと流れ出てきた。
夜遅く仕事から帰ってきたあの人は、散らかった部屋を見て少しビックリしていたけれど、赤く泣きはらした目をしたわたしを見て、何も言わずに、ぎゅっと優しく抱きしめてくれた。それでまた、溺れるんじゃないかってくらい、たくさん泣いた。十五年の人生の中で、一番泣いた。
わたしの初恋は、新芽が頭を出したところで突然摘み取られてしまった。もう、花は咲かない。
体内の水分が枯れるくらい泣いて、泣いて、ふつふつと沸き上がる怒りに似た感情と共に決意した。
忘れてやるもんか。一生、思い出してやる。雨が降るたびに、白いトレニアを見るたびに、夏が幾度と巡って来るたびに。
「ふざけんな!覚えてろよ!好きだったんだよ、ばぁぁーか!」
リアルでグロテスクなこの気持ちに真摯に向き合うと、みかん色の電車の中、シロの影に誓ったから。
大人になるのが、今は怖い。だけど、もがきながら、あがきながら、仕方なくも不条理にも、わたしは大人に成ってゆく。唯一の救いは、それが彼への道しるべになるかもしれないということだ。もっともっとレベルアップしたら、いつか、どこかで、もしかするかもしれない。
だってあの時。
ーー頑張れ
そう、聞こえた気がしたから。
あのトレニアは、今年も静かに咲いている。
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