4

1/2
前へ
/22ページ
次へ

4

日々、補習のために登校してる身としては、登校日なんて補習以上に出てくる意味が分からない。たった数日しか会わなかっただけなのに「久しぶり」とか「元気だった?」とか、学校中が鳥の巣になったみたいに騒がしく、みんないつもより楽しそうだ。夏休み中にでもしてきたのだろうか。キャンプ行って、ディズニー行って、旅行行って…。 「よーぅ、冴島」 ガッガッと音を立てて椅子を引きずりながら、佐々木がわたしの右横を陣取った。この人も、毎度飽きないな。 「聞いたかぁ、サオリが祭りで男と手ぇ繋いでたらしいぜ」 「ふぅん」 「もっと驚けよ」 「前からそんな気はしてたから」 「知ってたのかっ。スクープだと思ったのに」 「知ってたわけじゃない。ただのカン」 「カンって何だよ。霊感?おま、霊が見えんの?」 坊主頭のニヤニヤをスルーして、窓の方を見る。サオリは最近、わたしの嫌いな顔をし始めていた。それは、花屋に来てた三人組とか、が電話で誰かと話している時にする顔と同じやつだ。そういう顔をしている女子は、三年生になってから結構多い。ガラスに映った、クラスメイト。あの子も、あの子も、ほら、あの子も。 「何見てんだよ」 佐々木がわたしの机に身を乗り出して、窓の外を覗いた。男子特有の匂いが鼻先まで近づいたので、反射的に身を反らす。 「あ!何だ、あの花。あんなとこに木が立ってたんだな」 「百日紅(ひゃくじつこう)だよ」 「ひゃ?」 「そーゆー名前」 佐々木は『意外』と顔に書いてわたしを見た。 「へぇ。よく知ってんな。あ、あれは俺も知ってるぞ。菊だろ」 「あれはジニア」 「じゃあ、その隣のやつが菊だろ」 「そっちはマリーゴールド」 佐々木は菊って名称しか知らないのだろうか。まぁ、わたしだってつい最近まで、それらを何気なく菊なんだと思ってたんだけど。ここのところ、道端に咲く花の名前が分かるようになった。あの花の名前は何だったっけ、とシロの声を思い出すのだ。雨音みたいな彼の声は、わたしの耳の奥で螺旋状にリフレインして、その度みぞおち辺りを温かくさせる。 あれ以来、花屋には行っていない。店長さんに誤解されているのが恥ずかしくて、とてもじゃないけど足が向かない。お陰で、わたしの日常は、日常に戻ってしまった。 淡々と、(うち)と学校の往復をするだけ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加