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佐々木が何だか面白くなさそうに、フンと鼻を鳴らした。
「花の名前知ってるとか、ババアかよ」
「うっせ」
「さては、農業高校に行くつもりだな」
農業高校か。それもアリ。
花の名前をたくさん覚えて、上手な育て方を身につけたら、重要アイテムをゲットする技も身に付くかもしれない。とは言え、わたしの秘密のアイテムは、とっても未知数だから、確信はないんだけど。そこまで考えて、ブルブルと一人首を振った。またシロのこと考えてる。これじゃあ、店長さんに誤解されても仕方ないじゃないか。
「冴島はいるかぁ?」
ひょっこりと、吉田先生が教室の入口から顔を出した。手首のスナップを利かせ、わたしに向かって手招きをしている。何やったんだよぅ、という坊主頭のニヤニヤを再びスルーして廊下に出ると、先生は黒目をキョロキョロ動かしながら、本当に、唐突に言った。
「三者面談、来週になったからな」
「………え?」
「お母さんに、全く報告してなかっただろ。電話口ですごくびっくりしてたぞ」
後頭部を鉄の棒で、ガンと殴られた気分になった。
「報告することはちゃんとしないとダメじゃないか。結果、皆に迷惑をかけることになるんだ」
びっくりし過ぎて、返事もできない。
「とにかく、お母さんに話ができない理由があるんだったら、今度から先生に相談しなさい」
「………」
「いいな?」
こういうのを、オタメゴカシって言うんだ。
親にも先生にも言いたくないことだったら、わたしはどうすればいいんですか?
大人ってみんな、自分のことを頼りになる有能な人間だって思ってるんだろう。怒られてるのに、笑みが浮かびそうになる。吉田先生の口元は引き続きゴニョゴニョと動いていたが、わたしはそれ以上聞くことを止めた。ソワソワして、居ても立ってもいられない気持ちでいっぱいだった。どうしたら学校から消えられるのか、それだけを考えた。学校なんてなくなっちゃえばいい。日本の有名な大怪獣は、都庁なんて攻めてないで、ここを攻めてきてたらいいのにと思った。
本当は、学校なんて行きたくない。だけど、行かない勇気がない。行けてるだけマシ?そうかなぁ。心の中は、ずっと不登校。行けと言われるから行ってるだけ。それに、行かないとあの人が困るから。
だから。それでも。わたしはきっと、何事もなかったかのように明日も学校に行く。普通に、いつものように。
自由なんてない。子供なんて、何もいいことない。早く、大人になりたい。それなのに、時間は前に進まない。
だからわたしは、いつまでたっても、どこへへも行けない。
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